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GRAPPLE M@STER

 俺は激しく動きまわった結果、息を吸うだけで肺が痛みを訴えかけていた。
全身の筋肉には乳酸が溜まってまともに動けずにいる。しかし、試合はまだ終
わっていない、いや、終わらせる訳には行かない、そう思い対戦相手を睨みつ
ける。視線の先に存在するのは空手着姿の中性的な少女、
短めにカットされた髪と俺の動きを見極めようと睨みつける表情が相俟って凛
々しさが表立っているが試合が決まり、挨拶に来た彼女が礼儀正しく元気に
「ボクとまた試合をしてくれるんですね!よろしくお願いします!」
と俺に頭を下げた時の表情は美少女と言っても過言ではなかった。果たしてど
ちらが彼女の本当の顔だろう?そんな思いが脳裏をよぎる。呼吸がままならな
いせいで酸欠に陥り集中力は欠けている、そう思い俺は改めて彼女を注視した。

 彼女の構えはボクサーのアップライトスタイルを思わせるものだった。空手
と言われて想像をする腰を落とした深い構えではないが、ボクサーのように躍
動することはなくただ、静かに滑るかの如く移動をする。更にそこから踏み込
み繰り出される攻撃は神速の一言に尽きた。年の頃は十代半ばといったところ
だがその動きは達人の領域に達していた。勿論、ディフェンスも並々ならぬも
のが在った。ブロックをすれば彼女と俺の体重差からダメージをうけるのは当
然。それを理解した上で、俺の攻撃の力を上手く利用し受け流し、捌き、バラ
ンスを崩した所へ反撃を加えてくる。
 幾度かは彼女へ俺の打撃が捌かれず当たると確信した瞬間も在ったが、それ
は俺の幻想でしかなかった。否、彼女に幻惑させらたと言うべきか。
 彼女は俺の攻撃を見切り、僅かに立ち位置を変え、或いは身を捻り強烈なカ
ウンターを合わせてきた。

 空手と言えば誰もが想像する型に嵌りきった動きか、実戦空手と謳いつつも
ただひたすら打撃を撃ちあうもので無い。彼女の空手は俺の攻撃を柔軟に捌き、
彼女自身の攻撃ではその力を発揮する理想的な形で放たれていた。
 今の彼女にとって弱点とも言える組技を直接、或いはフェイントや打撃で怯
ませてからと試みたが全てが躱され、或いは反撃の一撃で止められている。
 俺の脳裏に以前の彼女との闘いでの苦い敗北が蘇った。その時の彼女は俺と
同じく総合格闘技スタイル。俺は彼女の打撃、投技、関節技、絞め技と全てを
駆使した詰将棋の様な闘いぶりに完敗した。
 俺はそれ以来、トレーニングを重ね己自身をひたすら磨いた。彼女へのリベ
ンジを誓い試合は以前の彼女とよく似た理詰めの試合を行う選手ばかりを選ん
で勝利を収めてきた。次は負けない、そう確信し俺は彼女へ挑戦状を叩きつけ
たのだが、この金網に囲われたオクタゴンに現れた彼女の姿は空手着姿だった。

 正直な所、俺は彼女のそんな姿を見た時は落胆した。自分の強さに驕ったの
ではないかと。しかし、花道を俺を見つめながら一歩一歩、歩みを進めてくる
彼女の姿に俺の背筋に冷たい汗が流れた。その眼差しはアスリートの物ではな
く、格闘技がスポーツになる以前の武術家の表情だった。
 試合の本当の意味は死合、そんな事を語った友人でもありライバルでも在る
格闘家の言葉が俺の胸中に蘇る。
 彼女は俺の強さを見とめた上で自分本来の闘い方で俺を迎え撃とうとしてい
ると確信した。そして、彼女は自分自身の信じた闘い方で、総合格闘技を始め
る前から磨き上げ、研ぎ澄ましてきた爪と牙で俺を全く寄せ付けない闘いぶり
を見せてきた。
 もし、彼女が以前と同じ様に俺に合わせたファイトスタイルで挑戦を受けて
いたなら俺はここまで苦戦したかと自分に問いかける。そして、行き着くのは
今と同じように苦戦していただろうという結論。
 彼女の心構えはそれほど頑なで強固なものだと俺は拳を交え理解した。しか
し、そんな心構えを保つ彼女は格闘家ではない、本業はアイドルなのだ。

 俺の胸中に渦巻く思いを察したのか彼女は全く手を出してこなかった。睨み
合いが長く続きすぎたせいで、レフェリーから両者消極的と警告が入る。
 そして、試合再開が告げられ俺は再び彼女の眼を見る。彼女の目は俺に訴え
かけていた、全力でかかって来いと、真剣に本来の闘いで俺を最後まで迎え撃っ
てみせると。俺はその視線に弾かれたように殴りかかっていった。
 残る力を振り絞り全力で一撃でも構わないから、一矢報いようとだたひたす
らに前に進みながら俺は拳を次々と振るう。しかし、彼女は今まで見せた滑ら
かな動きで金網を背後に背負うことの無いよう俺の攻撃を躱していく。俺は気
力を振り絞り残る力を全て込めた拳を振りかぶった。その瞬間、彼女の眼が光
る。神速の踏み込みと共に放たれた彼女の正拳突きが深々と俺の鳩尾にめり込
み、背中まで突き抜けるのではないかと錯覚するほどの力で抉りこまれる。
 俺は堪らずマウスピースを吐き出しそうになったが必死に堪えた。互いに拳
を突き出したまましばらく時が止まった様に静止する。俺の拳はあらぬ方へと
放たれ完全に空を切っていた。

中段正拳逆突き

 彼女の拳の衝撃があまりにも強すぎ俺は涙を流していた。何かにぶつかった
時、勢いがありすぎて浮かぶ涙と同じものだ。彼女が俺の鳩尾から拳を引き抜
き一歩下がると同時に俺は膝をついた。彼女は立ち上がりながら反撃してくる
俺に備え、再び構えを取る。武術や武道で残心と呼ばれる行為だ。だが、俺に
は再び立ち上がり彼女と闘う力は残されていなかった。
 レフェリーが俺の現状を鑑みて試合終了を告げる。彼女は構えを解き、俺に
手を差し伸べた。全力を尽くして闘った者同士が得られる連帯感からだと言う
のは俺にも即座に理解できた。だが、俺は素直にその手をにぎることは出来な
かった。
 俺の目から未だに涙が流れ続けている。その涙は既に生理現象ではなく、悔
し涙となっていた。彼女の強さと格闘家としての器の大きさに完敗した屈辱か
ら流れるものだった。
 彼女は俺の心中を察したのか敢えて、差し伸べた手を引くと四方の観客へと
向い礼儀正しく頭を下げる。勝者は敗者に何も語らず、そんな彼女の潔さに俺
は更に涙を流し続けることとなった。俺はどう足掻いても彼女には勝てないの
だと。

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